Festival Statement

ヨコハマダンスコレクション

横浜赤レンガ倉庫 1 号館を拠点に、横浜で毎年開催される国際的なダンスフェスティバル。
約500組の振付家を世界に送り出したコンペティションや近年の受賞者によるクリエーションをはじめ、国際的に活躍する振付家による最新作や海外のダンスフェスティバルとの連携プログラム等多彩なプログラムで構成する。毎年恒例の「青空ダンス」「ダンス保育園!!」を、今回はオンラインで開催予定。世界的な振付コンクールのジャパンプラットフォームとして 1996 年にはじまり、同時代に応答する振付の現在地として、また創造性に基づく対話交流のフェスティバルとして今回で 27 回目を迎える。

今は身体へ帰りたい

「身体」という言葉は「み」と「からだ」を合わせてつくられ、「み」は生きている肉体を、「からだ」は生命のない状態、ぬけがらの「から(空、虚)」を意味するとされている。生と死が一体、表であり裏であり、彼方と此方を行き来する。身体の動きや微細な表情、身体一つで繰り広げられる表現を見ていると、こころが動き出し、魂が揺さぶられ、生きかえるように感じる瞬間が訪れることがある。視覚、聴覚だけでなく様々な感覚を開いてその時空を共に生きることで、身体に焼き付いた記憶や風景、社会への批評性や不可視のものを知覚する。
日本における世界的なスポーツの祭典は幕を下ろした。起源は古代ギリシャにあるということだが、現在の形は産業社会以降の近代の価値観によって拡大をしてきた。世界には様々な文化があるが、二つに分けるとすると農耕民の文化と遊牧民の文化。身体は文化であり社会。農耕民の踊りに特徴的なのはすり足で、遊牧民の踊りに特徴的なのは跳ぶこと。日本に能という舞が生まれたこと、ヨーロッパに跳びはねる踊りと言えるバレエが生まれたことは自然なことと言える。そして舞踊を芸術的な表現とみなす概念は近代以降のものだという。近代=産業社会に特徴的な身体とは?産業社会で工場や学校、軍隊が生まれ、身体は重要なものとされた。この時代に体育という概念が生まれたが、特に産業社会に特徴的な身体(画一化された身体)が良く現れていると言えるかもしれない。多くの人が同時に歩いたり働いたりできることが重要だったそのような社会を経て、個性や特性を表現しようとする芸術的な舞踊が生まれた。画一化と規格化の社会に対するカウンターとして現代舞踊の系譜がはじまったと言える。20世紀の舞踊を方向付けたのは、1900年初頭にヨーロッパを席巻したバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)。さらにダンサーの思考や情緒に価値を置いたのがモダンダンスだった。これまでも社会的、経済的、文化的な危機に際して身体についての対話は重ねられてきたが、今回の「ヨコハマダンスコレクション」で上演するのは、10年前の大きな災禍を創作の出発点とした作品や社会課題に正面から向き合った創作であり、コロナ渦の中でも粘り強く練り上げられてきた。「見えるもの」と「見えないもの」の境を行き来して、ジェンダー、世代、国家、人種等を越えて人と人を繋ぐ表現が目の前に立ち上ってくるだろう。身体は最も近い自然であると同時に身体が置かれている状況や環境全てに関わる社会的・政治的なもの。100年前・30 年前の身体と社会との関係を振り返り、いまここにある身体から未来を思考して様々な対話が生まれることを願っている。