Festival Statement

世界的な振付コンクールの日本プラットフォームとして1996年にはじまった「横浜ダンスコレクション」は、26回目の開催を迎える。他者と社会に向き合い、身体と表現に向き合う振付家600組以上がこれまでに参加し、現在も内外各地のダンスコミュニティで創造を繰り広げている。「横浜ダンスコレクション」は、振付家・ダンサー等が新たな表現の可能性に挑む場であり、創造性に基づく対話・交流のプラットフォームでもある。振付は身体と社会との繋がりを探求して人間を見つめ直す実践と言うことができるが、日々変容する同時代にあるつくり手の連帯と地域や国際的な結びつきの重要性は今後さらに増すであろう。

COVID-19パンデミックは、私達の住処と生態系と世界を顧みることを気づかせ、これまで当たり前に存在したいくつもの様式が消滅しそうな今、振付の実践は何を意味するのか、創造の未来を望む時に何が鍵となるのかについて考える機会となった。今回上演されるクリエーションは、過去/未来、ローカル/国際、私/公共、ここ/そこ、の間を往還する方法を提案し、想像力と創造力について大きな示唆を与えてくれる。創造の連続によって初演を迎えて世に送り出されたダンスがその後どのように成長し、上演の度に世界各地の多様な観客に共感を広げることができるのか。その創造とプロセスに存在する「意識」「遊戯」「空想」がそのような問いへの応答かもしれない。

本当の意味で世界的な振付家であるアラン・プラテルが2010年に発表して以来、世界70都市・160回以上の上演を重ねて、今もなおオリジナルメンバーとプラテルによって進化を続ける作品では、身体の歪み・不可思議な動きが理性を超えた意識と衝動をさらけ出し、時空を共有する人々の感情の奥底に感応してプリミティブな共感が広がるだろう。そして、韓国内だけでなくアジアや中南米でも活躍目覚ましいキム・ジェドクが、2008年初演から世界30都市・50回以上の上演を重ねる伝統的な乞食歌を再解釈した作品では、伝統/現代、周縁/中心等様々な境界を行き来する多層性とダイナミックな動きで新たな空想を描き出す。ダンスコネクションとして上演するのは前回のコンペⅡ最優秀新人賞の橋本ロマンス。2019年のコンペⅠ審査員賞を受賞した下村唯は受賞作の延長線上にあるコンセプトを発展させた最新作を発表する。在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本との共同プロジェクトであるダンスクロスでは、前回、若手振付家のための在日フランス大使館賞を受賞したが、感染症拡大によりフランスでのレジデンスが延期となった岡本優が将来発展させたいコンセプトを提示し、また、この企画のために、コンペティションⅠの審査員でもあるエマール・クロニエがフランスの新世代の振付家をトークと抜粋映像により紹介、さらに2002年のランコントル・コレグラフィック・アンテルナショナル・ドゥ・セーヌ・サン・ドニ(旧バニョレ国際振付賞)ヨコハマプラットフォームでバニョレでの上演権を得て、同年にヨーロッパ初演を果たしたことにより、一躍世界のダンスコミュニティの注目を集めた梅田宏明が、その代表作を約20年ぶりに横浜で上演する。そして今回新たなプログラムとして、北村明子をファシリテーターに、前述のアラン・プラテルとキム・ジェドクをメンターに迎えて再創作のための構成力養成講座を行い、過去のコンペⅠ・Ⅱで受賞経験のある6名の振付家が参加する。

2020年春から夏までのほとんどの舞台芸術公演やフェスティバルは中止や延期を余儀なくされ、COVID-19感染拡大防止のため10月の時点でも自由に国境の往来ができず、国際的な芸術文化交流がリアルにはできない状況にある。今回いくつかの作品上演がキャンセルされる可能性や、同じ空間と時間を多くの人が共有できない可能性、課題に対応するための様々なアイデアや緊急対応が求められる可能性もあるが、予定している上演がリアルにできない場合でも、このフェスティバルの意義と横浜ダンスコレクション2021のコンセプトを保持する方法を考え出したい。

Consciousness / Play / Fantasy

『OUT OF CONTEXT – FOR PINA』が初演から10年を経ても色褪せないどころか、一層輝きを増し世界中でファンを魅了しつづける所以は、プラテルのモットー「このダンスは世界のためのものであり、世界は皆のためのものである」にあるのだろう。今は亡き巨匠ピナ・バウシュを深く敬愛するプラテルが彼女に捧げた、悲しみと喜びが葛藤するダンス。分断の連鎖からは何も生まれない。創造力と感情の豊かさ、思いやりの繋がりが世界を変える。ICTの活用によって新たな発想や可能性が生まれているが、いまのところロボットやAIにはない「意識」「遊戯」「空想」が共鳴し合うような今回のプログラムから創造の未来を開くあなた自身の鍵を見つけてほしい。「Tanzt, tanzt, sonst sind wir verloren 踊りなさい。自らを見失わないように。」はピナの言葉であるが、振付家、ダンサー、観客だけでなく、いまに生きる全ての人に響く言葉であろう。

2020年11月13日
横浜赤レンガ倉庫1号館 館長 小野晋司