旅するダンスプラットフォーム、HOTPOT
横浜赤レンガ倉庫1号館の小野さんから、ヨコハマダンスコレクションが東アジアのコンテンポラリーダンスのプラットフォームを東アジアの仲間と一緒に創ると聞いたのは、コロナの(感覚的には)ちょっと前だったと思う。北欧には Ice Hot Nordic Dance Platform というコンテンポラリーダンスのプラットフォームがあるが、それをモデルにしているという。
Ice Hot は、アイスランド、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、そしてフィンランドのダンスハウス(なんと!世界にはダンスに特化した劇場があるのだ)やダンスセンターが、それらの地を巡回しつつ集まり、北欧のコンテンポラリーダンスを世界に紹介するプラットフォームだ。ちょうど立ち上げの頃、その関係者に立ち話程度に話を聞いたことがある。たしかコロナの(感覚的には)随分前だったか。フィンランドでは近現代の間に(おそらく公共的にという意味だったと思うが、)50年くらいのダンス文化のある種の断絶(というと大袈裟かもしれないが)があったというようなことを聞いた。またダンスは、劇場文化の中では地位が低く見られがちだと。それじゃああんまりだとダンス専門のダンスハウスが北欧でも立ち上がり、(おそらく経済成長や北欧的社会の成熟と寄り添って)このプラットフォームが出来上がって続いている。北欧5カ国旅するプラットフォームとして、それぞれの場所で活動しダンスを創っている人たちが、移動しつつ一ヶ所に集まり、作品を紹介するのだ。今は2年に一回の開催となっている。私は一回も Ice Hot には参加したことはないけれど、多分、「やあ、やあ」と北欧のダンス関係者が集まって、コンテポラリーダンスにしかないアレらについて思う存分話し、踊り、享受するのだろう。旅するプラットフォームだからこそ(各地の主催者は順当にいけば10年に一回ホストになればいいのだ)、できるフレッシュさと全力投球さを分かち合う・・・。
HOTPOT2024は2巡目、6回目だ。香港、ソウル、横浜。北欧のようなダンスハウス(に近い場所もなくはないだろうけど)があるわけではないけれども、コンテンポラリーダンスに情熱を注ぐ人たちが、HOTPOT で出会い、東アジアを旅するプラットフォームを形作り、そしてコロナを挟んでも継続してくれている。昨年は香港の西九文化區(元九龍西側)に新しくできた「自由空間(=Free Space)」を中心会場として行われ、私もビジターとして参加させてもらった。西九文化區の開発は佳境を過ぎ、本土から直通の高速鉄道が開通、雨傘運動、コロナを経た後に訪れた香港は、以前の、つまりコロナ前、雨傘前とは一見して変わっている。以前のような「革命」の話はない。近未来高度経済都市、まるでシンガポールのようなアジアの大都市として、お金が価値の縦軸にあるような街に見える中で、しかし、その溢れんばかりの経済的勝利に革命の敗北を人々が受け入れている。有体に言えば、本土からやってくるお金持ちで潤っている今を多くの人が否定できないように感じる、そのような中で開催された、と思った。
しかし。HOTPOT では公演も会議もオンラインの実施はなかった。集まった数十名に「だけ」、アーティストたちが、言葉を超えて表現すべき何かを提示してくれる。オンラインでは伝えられない、言葉では伝えていけないものたちを、だ。なぜ私たちは国境を超えたプラットフォームを続けているのか。それは、私たちがそれぞれ属している共同体への批判の眼差しを失ってはいけないという歴史的反省の視点からのはずだ。少し前まではそう言ってもよかった。でも今はそう「言って」はイケナクなったかもしれない、けどそう思っているし、より強くそう思い行動したいと思っている、というような話を聞いたり、そういうものを見たりする。旅するプラットフォームだからこそできる、その開催が今回は、ここ、横浜だ。