TS Crew(香港)× contact Gonzo (大阪)新作レポ:素人が竹で橋を作って無事に渡れるのか毎日考えた日々
TS Crewと、厳密にいうとその中核メンバーであるボーさんとスティーブと、初めて会ったのは2018年の宮古島だった。私も個人名義で参加していたプロジェクトのレジデンスで宮古島と香港に滞在し、島の文化や失われつつある言語についてのリサーチやショーイングを行った。
初めて出会ったその日に、滞在場所の横の公民館のような場所でめちゃくちゃ楽しそうな集会の音が聞こえてきた。ちょっと見に行こうぜと初顔合わせのアーティストたちで様子を見にいったら、地区の敬老会らしく子供からお爺ちゃんまでが音楽と踊りでめちゃくちゃ盛り上がっていた。最終的にお弁当やお酒まで頂いて、2次会のカラオケスナックまでおごられて、べろんべろんで帰宅するという、宮古島初日だった。日本はどこもこういう国なのか?と聞かれる。
そのころはTS Crewのことはよく知らないまま、島でいろいろな体験をして過ごした。地元の方に雨乞いの踊りを習っているうちに雨が降ってきたり、スティーブが「ユタ」さんに友達で片目が見えなくなった人がいると言われて、誰だろうそんな奴は今いないな、と思っていたら次の日到着したボーさんが眼帯付けていたり、島とその精神性を日々目撃していた。
このようにして出会い、ほかにもプロジェクトを一緒にしつつ今回香港、横浜での新作発表の機会が巡ってきた。コンセプト立ち上げのミーティングで初めて向こう側から「橋を作りたい」という話が出て即了承。シンプルながら私たちの身体や社会について多くを語ることができる作品になるとこの時思った。
TS Crewのメンバーはみな香港出身だが、返還前生まれの年長のボーさんとスティーブはUK系のパスポートも持っていたため、既にUKに移住し新たな人生を歩み始めている。こういうこともあり、彼らの人生がどういうものか日々思い巡らせていた僕は、「橋」というテーマで急速に変化していく現在の香港の姿を背景に作品作りを進めてゆくことにしようと考えた。確かこの時に僕は「きちんと僕らなりにポリティカルな作品にしたい」と話した記憶がある。
contact GonzoとTS Crewはともに男性が多く、フィジカルな印象が先行しているのでコラボはイメージしやすいだろう。僕らがやっているのは「コンテンポラリーダンス???」ではないな、という認識も同じでおもしろい。とはいえ、実際の作品作りの過程は正反対でボーさんはきちんとした振付家なので作品も細部を詰めてきたタイプ、一方のゴンゾはシーンを構成してゆくことはできるけど状況によっては即興的にも動きたいタイプ。このことはチームによっては製作途上で大きな問題になることもあっただろうが、両チームでいいバランスを見つけながら、TS Crewなりに新しいことに挑戦するという事の楽しみを優先してくれたようにも思う。きっと彼らの方が、これまでにやったことがないような状況で進めてきてくれているのかなと思う。もちろんゴンゾとしても明確にテーマを設定して90分あたりの作品を構成してゆくことはあまり多くないので、新鮮なクリエイションであったし、僕自身は2020年よりディレクターとして関わるKYOTO EXPERIMENTでの新作制作などに並走してきた経験がかなり役立ったように思う。自分なりの国際的な場に出す作品というもののスタンダードがぐっと上がったというのか。そこにやはりゴンゾとしてのこれまで培ってきたある種の既存の前提をひっくり返してゆくような発想の作り方と関西人の感性をこれまでかとぶち込むことができたように思う。ジャンルとしてはポリティカル・コメディ・ピースと言えるのかもしれない。
製作は、城崎国際アートセンターでの2週間、去年香港での滞在制作10日間ぐらい?、今回の初演前に2週間、合計3フェーズのクリエイションを経て完成させた。城崎では、毎日温泉につかりながら気楽に?進められたが、10人ほどの滞在だったので食事の準備が大変だった。食事当番をゴンゾとTS Crewの両チームから選出してシフトを組んだのだけど、これがなかなかうまく機能して、食事を通して自分たちの生活やその変化の話が進んでいった。向こうには料理専門学校を卒業しているメンバーもいてめちゃくちゃうまい麻婆豆腐を食えたりもして最高だし。現地で立派な竹を切らせてもらったりもして、竹で作る橋に関してかなり実験を進められてよかった。さらには行政の協力も得られて当時建設中だった新しい大きな橋の内部も見学させていただくことができてめちゃくちゃ勉強になった。とはいえ、経済的な観点もあって両チームとも作品制作にそれほど時間をかけないチームなので、2週間もあればほとんどの骨組みは作ってしまえる。実は城崎ですでに、もう早くやらせてくれよって空気が出ていて、現地でのショーイングも計算外のところもありつつ満足のいくものだった。ゴンゾは海外滞在でも2週間以内で現地のパフォーマーと一緒にフェス作品をガンガン作ってきたので、とても役立っている。
つぎの年には香港で少し進めつつ関係者向けのプログレス・ショーイングなどを行い、本番はまだ来年か〜笑と話していた。それから橋を作る材料となる建築現場の足場を作る竹のリサーチをかなり行った。街中には高層マンションでも竹で足場を作る技術が発達しているので、その形を眺めて回って、触れる部分に関してはどれくらいの強度なのかを確認することができた。香港の風景を語る上で重要なファクターである。
撮影:松見拓也
撮影:松見拓也
とはいえこのショーイングを通じて、もう少し作り込めるなら音の部分をもっと遊べるとは気づいたので、最終のクリエイションはこの部分に注力して進めていった。初演の空間はかなり大きなスペースだったので「押していく」だけでは難しく、空間的な引き算をしつつ、肉体にポエジーをのせていくことが必要なのではないかと思ったためだ。この辺はスポーツと一緒で、同じリズムで攻め続けるチームの攻撃って体が慣れてくるってことありますよね。バックパスで相手を引き出して空間を作るようなことが必要だなと。それで日本でプラスチックのトランペットを買ったり、香港でレコードショップにいったりした。
香港では伝説の安宿、チョンキンマンションというところに宿泊し、僕は毎日インド人に囲まれてドーサというパリパリのクレープみたいなやつをカレーソースにつけて食べていた。日に日に手で食べるのがうまくなり、顔も覚えられていった。週末はマトンビリヤニも出回るので最高だった。さらにここはウォン・カーウァワイ監督の「恋する惑星」の撮影ロケ地らしいと知り盛り上がった。とはいえ毎日ゴキブリとの戦いで、ゴンゾのメンバーはわーきゃーいって走りまわるだけ、始末できるのはゴンゾで僕一人だったので毎日いそがしかった。ゴキブリホイホイを設置したらかなり混雑した家みたいになってた。笑
結果的に最後のクリエイションでも重要なシーンを作ることができて作品は完成し、無事初演を終えてきた。反応は上々で横浜での公演が楽しみである。香港での初演を終えて帰国するとすぐに、香港のマンションの火事のニュースが聞こえてきた。僕たちが使用していた建築現場の竹が火災の原因ではないかという憶測も出ているようだが、どうも規程の不燃材シートを使用していなかったことが大きな原因ではあるらしい。近年急速に香港らしさを失ってきているらしいと聞いているので、この竹が少なくとも風景に残ることを願っている。
塚原悠也
contact Gonzo × TS Crew 『Bridging Bridge』
日時:2025年12月9日(火) 19:30 | 12月10日(水)15:00
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
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